NEWS

【Lala】『Mellow』全曲ライナーノーツ(文=横堀つばさ)

本日3/26 Lala 2nd Album「Mellow」リリースいたしました!!
ライターの横堀つばささんにアルバム「Mellow」全曲のライナーノーツを頂きました!!

Mellow

届けた楽曲がリスナーによって咀嚼されることやアルバム制作を通じ、すくすくと自身の作品が育ってほしいという願い。そんな思いから「成熟」を意味する「Mellow」を掲げたセカンドアルバムのタイトル曲。硬く張られたスネアドラムから放たれるパンクとダンスを両立するビートやayahoの歌声を後方から援護するコーラスワークからは、タイトル通り、彼らのビルドアップが伺える。リフレインされる〈Mellow MELLOW mellow〉の一節は丸みを帯びた母音の発声によって「メロメロ」へと意味を変え、恋する君に、あるいは我々に「メロメロになっちゃえ」といったおまじないをかけていく。

メンヘラブストーリー

2月にアルバムから先行配信された一曲であると同時に、TikTokを中心に活動するクリエイター集団が手掛けるショートドラマの主題歌にも抜擢されたナンバー。元来ソロシンガーとして活動していたayahoは歌詞へのこだわりが人一倍強いと話しており、時々の自分がそのリリックを綴ることを許せるかどうかを審査しているという。ともすれば、この曲がドロップされたこと自体が彼女の審美眼に叶ったことの証明であるけれど、そこには〈こんな夢のような今から 覚めてしまわぬようずっと出来たてを頂戴〉〈君が思ってる以上に あたしはこんなんだけど そのまま手を広げて待っていてくれる?〉とありふれた、しかし確かなクリエイティビティに満ちた金言が並んでいる。踏み出す方向を違えばヘビィな音像になりそうな危険性を孕んだ言葉を、丁寧にポップへ昇華させるバランス感覚も見事。

サーチライト

2024年10月にドロップされた「サーチライト」は、京都発を謳うLalaが自覚的にホームを描くことへ挑戦した5th デジタルシングル。固有名詞が持つ強烈な情景描写能力を百も承知で<鴨川に腰をおろした 時間は止まっていたんだ><河原町の中へ いつの間にか消えていたんだ>としたためた数行は、川べりへ腰を下ろした際にかすかに触れる草の湿り気やざわめく街の気配を眼前に屹立させると同時に、リスナーが抱く故郷の心象風景とオーバーラップしていく。ayahoからまだ見ぬメロディーを引き出すため、TAKETOがアンサンブルを先行して制作したという本作は、その効果もあってか、バンドサウンドが前景化。基盤が設けられたことにより、ayahoの歌声も自由度を増している。

泣いてばっかだったな

ビックバンド的な壮大さを兼ね備えた音像がシンボリックなミドルナンバー。<溶かしちゃった1000円><君貯金もうすぐ10倍よ><君が爪を1mmほど切ったこと>と数詞を用いつつ愛の大きさの違いを浮き彫りにしていく歌詞が、小さな目の付け処から恋物語を生み出すLalaの文体と抜群の相性を誇っている。最後の最後、僅かな間を溜めて口に出される<君だったんだよ>の台詞は言い聞かせるみたいに言葉を紡いできたからこそ、別れ話さながらの緊張感を生成し、深層まで潜りこんでくるのだ。

愛ゆえに

2024年6月にリリースされた3rdデジタルシングルであり、8月に投下された1st EPでもゲームチェンジャー的な役割を担った一曲。作曲を担当したTAKETOはオーディエンスにとっての刺激を生成するため、そして直球に留まらない球を投げるため、ジャンルを問わず作品を生み出していきたいとメンバーを説得したという。もともと作家を志望していたTAKETOは、決して独善的に陥ることなく、受け手の存在を徹頭徹尾意識したプロデューサー的視点を持ち合わせているが、80‘sのシティポップサンドを組み込んだこの楽曲からは、そんな彼のバンドに対する態度が伺える。乱反射するビル街の明かりとコツコツと聞こえてくる革靴の音を喚起するカッティングギターや滋味たっぷりのビートは、音楽的なカラーの拡張を志向した本アルバムの出発点だろう。

マフラー

2025年1月に発表した6枚目となるデジタルシングル。表題からはラブソングの正統派と言えるウィンターバラードを妄想してしまうところだが、蓋を開けると耳に飛び込んでくるのは、ザクザクとしたブリッジミュートサウンド。〈マフラーでいっそふたりで 死んでしまったなら〉〈このマフラーみたいに 強く あたしを縛って、ほら〉と、マフラーを2人を繋ぐ糸としてではなく、檻として、あるいは枷として記する一節からは、「メンヘラブストーリー」にも通ずる嫉妬深いけれど憎めない女の子像が浮かび上がっていく。それゆえに〈あぁ、冗談だよ、ごめんね〉とギリギリまで伸ばされた尾を引くayahoの歌声をもって、全てをひっくり返し、感情を押し殺す最終行が胸を抉ぐる。

もし君の恋人になれたら

このアルバムにおいて、唯一男の子の目線でしたためられたと思われる一曲。一人称に僕を用いたその他の楽曲と一線を画しているのは、ayahoのボーカリゼーションが明確に低域へ主軸を寄せていることであり、連打されるスネアやチョーキングを多用するギターサウンドと合わせて凛としたムードを香らせている。<もしも僕の恋人になったなら 君を世界一幸せにする>とある種の定型句を述べた上で<なんて言えやしない こんな僕だから だめだったんだろうな>とちゃぶ台を返す様子は、情けなくも愛おしい。Lalaの楽曲が共感を呼ぶ理由は、恋する少女の気持ちを代弁しているからだけではなく、欠陥だらけの人の営みを描いているからだと分からせる作品。

Monster

「愛ゆえに」や「サマーラブ」同様、1st EPからの選曲。〈この世界 君とじゃなきゃ 叶えられない夢ばかりさ〉〈この世界 僕と一緒に 生き抜いてくれないか〉と同じ時代を行き抜く中で苦難を分かち合わんとするリリックは、「22歳」とも大きく重なるメッセージを湛え、今のLalaが見つめる命題を反映している。クリーントーンのギターを添えて届けられるayahoのボーカルは吐息までそのままパッケージングされたかのような響きで、段々とスイングの大きくなっていくアンサンブルがその切なる叫びの背中をそっと押す。

君へのワルツ

1st アルバム収録の「月が綺麗に見えるのは」以降、作詞にチャレンジしてきたというYUMEKA。この2nd アルバムはそんな彼女が作詞を担当した2曲を収めているけれど、題名通り三拍子で展開していく本曲は、ぜんまい仕掛けのオルゴールを想像させる煌びやかな仕上がりに。多角的な側面の演出を生み出すメンバー全員によるソングライティングへの参加は、その企み通り、ayahoの声色を拡張。〈君に会えるのが たった10秒だとしてもね 君に会えるのなら そりゃあ気合いが入ってしまうよ〉の数行は、Lalaが武器としてきた繊細な筆致を損なうことなく、ジュブナイルソングとしての様相を強めている。滑らかに筆を進めてきたからこそ、クライマックスに設置された仕掛けが爆発力を放つ一曲だ。

サマーラブ

2024年7月、まさしく夏の盛りにドロップされた4枚目のデジタルシングル。上行系を描きながら幾度も提示されるギターリフやスパークするビートは、ポップパンクの血統さえ感じさせる眩さを誇っている。冬の曲「マフラー」や「だまされてあげる」では、湿度の高い恋の消失が描かれていた一方で、この曲では〈浮かれている私達ぷかぷか〉〈ここは世界のど真ん中〉と浮つく気持ちが急上昇していく様を描写。〈ぷかぷか〉〈ゆらゆら〉と差し込まれるオノマトペも丸く可愛らしい触感で、ポジティブなエネルギーを増幅させていく。

NEVER MIND!!!

1st アルバム収録の「ほろ酔い」で見せつけられたLalaのヘビィネスが、パワーアップを遂げて結実したナンバー。低音の効いたグランジなリフや隙を与えないコーラスとの掛け合いを筆頭に、攻撃的な合奏がスリリングに展開されていく。<円陣組んで><エンジンはせーの>と同音を用いた耳心地の良さを担保しつつ、<そのままでいい 自分以外 信じない 興味無い 泣いていい><わがままでいい 自分以外 NEVER !!>の宣誓で「そんなの気にすんなよ」と外部からの心無い声を跳ねのけ、アンプから爆音を鳴らすロックスターらしさを体現。音楽への敬愛とアグレッシブっぷりを示すこの歌は、ここから後半戦に突入していくアルバムの行き先を匂わせるギアチェンジとしても機能している。

22歳

2024年8月に産み落とされた1st EPの開幕を飾った一曲。「はたち。」で〈わたしはハタチ 大人の実感なんて とっくに捨ててきた〉と弾き語っていたayahoは、2年の時を経て〈私は私を大事になんてしないから 一生甘やかして 心を太させていてよ〉〈この世界に爪痕なんて残せやしないから 一生覚えていて〉と言葉を紡ぐようになった。ある種の諦観や挫折にも思えるこの歌詞からは、がむしゃらに夢を追う中で人一倍傷ついてきた様子が垣間見れると同時に、孤独に何かを残すのではなく、生み出したものが他者の記憶に刻まれることが重要なのだという気づきや交歓への願いが読み取れる。「はたち。」同様、アコースティックギターを基調としながらも、冒頭からバンドサウンドで彩られていることは、その証明である。

正真正銘両片想い

「君へのワルツ」と同じく、YUMEKA作詞による一曲。爪弾かれるアルペジオやどことなく夕方五時のチャイムを連想させる昔懐かしいメロディーは、数歩前を歩く制服姿の想い人や相手に届いてしまわないか心配だった心音を連れてくるはず。リリックは終止現代時勢で記されているものの、古ぼけた写真を眺めるようなノスタルジーを含んだサウンドスケープが、老若男女を問わない普遍的な恋愛歌へと昇華させていく。初出の段階で<だけど君の気持ちに気づいてる 正真正銘両片想い>と届けられたラインが<もうとっくにバレている 正真正銘両想い>に変化する構成は、気持ちの矢印が向き合ったことを暗示。2人が手を繋ぐ日は近い。

Find me Find you

2nd アルバムを締めくくるのは、「Monster」や「22歳」にも滲んでいたロックバンドとしての成長がありありと発露した楽曲。<17 僕は生きがいを見失い ふらふら日々 もがいてる><22 僕が生きがいになりたい 未だに日々 もがいてる>と助詞をチェンジすることで、17歳から22歳にかけての精神変化を書き留めたり、<あの頃の僕を抱きしめるために歩き出した 今はもう僕だけの夢じゃない>と私の野望から始まったこのバンドがもはや1人のためではなくなったことを伝えたりと、オーディエンスへの感謝をこれでもかと込めている。考えれば、本作で音楽的レンジの拡大に挑んだことも「ファンの方に飽きてほしくない」という思いから。1st アルバムを掲げ全国20箇所を巡ったことや各地のライブハウスで戦ってきた経験で培われたロックバンドとしての自負は、「誰かのヒーローに、生きる意味になりたい」という新たな野心として芽吹いたのだ。

文=横堀つばさ